江馬務の「日本結髪全史」

「日本結髪全史」(創元社)
「日本結髪全史」(創元社)

日本の歴史上の髪形を紹介した研究書は何冊かあるが、なかでも江馬務の「日本結髪全史」(創元社、1948年発行)は参考になる。江戸時代の髪形を勉強している人なら一度は手にしているかもしれない。

著者の江馬務(1884~1979)は、有職故実や風俗史の研究者として知られ、それらに関する著作が多い。1960年には日本風俗史学会を設立し、自ら初代会長に就任している。

「日本結髪全史」は、古代(固有風俗時代)、奈良~平安(韓唐風模倣時代)、鎌倉~室町(国風発達時代)、応仁の乱~江戸(国風全盛時代)、明治~(和洋混淆時代)に大きく区切って紹介している。カッコ内の見出しが、その時代の髪形の特徴を言いあらわしていて、日本の髪形の歴史が俯瞰できる。

この「日本結髪全史」が際立つのは、400点を超す豊富な図版が掲載されていることと、主要な髪形に名称を付けていることである。
同書は、国風全盛時代に重点が置かれ、この時代だけで、女子193点、男子88点の図版が掲載されている。もっとも、図版が多いのは、元になる史料が多いから、ともいえるが。

「日本結髪全史」の難を指摘すれば、元になる史料の検証が行われていないことだ。屏風絵や絵草紙は年代が不明確な史料が少なくない。
たとえば、江戸名所図屏風は、江戸城・天守閣が描かれているので、一見明暦の大火以前の江戸の風景を描いたように理解されるが、絵の作者は依頼主の要望があれば、現実にはない、再現表現をやることもある。
また同書は、浮世絵や錦絵を元史料にしている図版が多くある。しかし、これらの絵画表現には誇張、デフォルメされたものもあり、100%真実を表しているとはいえない。

もう一つは、せっかく髪形に名称をつけたのだから、さらに一歩踏み込んで、髪形を体系づけて分類する作業を行えば、同書の評価はより高くなるのだが、それがなされていない。
江戸時代の日本髪は、笄髷、兵庫髷、島田髷、勝山髷の4系統に分けて紹介してる専門書もあるが、この区分けは釈然としない面がある。
髷・前髪・タボ(ツト)・鬢の部位の特徴を整理すれば、より理解しやすくなる。男子の髷も、髷の形状と月代(総髪)などを切り口に整理すればより変遷がわかりやすくなるはずだ。

「日本結髪全史」は、前述のような難もあるが、他の類書には見られないほど、多くの史料を収集し、的確に時代を区分をして網羅している。それだけでも価値はある。

丘圭・著