いまも昔も、多彩にあった櫛

理美容師の仕事に欠かせないのが櫛です。それは江戸時代の昔も変わりありません。

刈込が主要な仕事の理容師は、粗櫛、中櫛、細櫛、仕上げ櫛などを使い、掬い刈りや押し借り、回し刈りなどの技を駆使して髪をカットします。もっとも中には、中櫛だけで指間刈り、刈上げを行い仕上げてしまう横着者もいますが、仕事で使う櫛の種類は多彩です。粗櫛よりももっと目の粗い鬼櫛とよばれる櫛があったりします。

江戸時代は鬢や髷を整えるための梳櫛を使っていました。
「近世風俗志」(喜田川守貞)によると、粗、中、密の三つが基本で、この梳櫛を三ツ櫛と呼んでいたそうです。梳櫛の大きさは4寸5分、7分(14センチぐらい)で、粗櫛で10歯、中櫛で20歯、密櫛で30歯と、「おおよそ」と前置して書いています。

このほかにも、髷を整える「刷毛こき」、歯の浅い(短い)「鬢かき」、また目(歯)の細かい「唐櫛」、鬢を仕上げるために使う、「鬢刷毛」という道具も紹介しています。「鬢刷毛」は水油を引き、髪に光沢をだすのだそうです。素材は、唐櫛は「竹製なり」とありますが、他は黄楊(つげ)製のようです。

櫛とは別に髷を作るために髷棒という、美容師が使うラットテールコームの棒状の部分に近い道具もあります。これを使い、髷を収めていました。柄の部分は管といい、4センチほどの長さがあり、その先に5,6センチほどのはがね製に先細の棒がついた道具です。
江戸時代の髪結床は、これらの道具を使って髷を作っていました。

江戸時代、多彩な髪結道具があったことが、「近世風俗志」の一文からうかがえます。
しかし当時の髪結床がこれらの道具すべてを使って髷を結っていたかは知るよしもありません。梳櫛1本で仕事をする、横着者というか器用な髪結床がいたかもしれません。

守貞さん、髪結事情について、昔は江戸が京坂を学びましたが、いまは奢侈に増長した江戸が抜きん出ています、と書いています。いまというのは守貞さんの江戸末期(19世紀初め)です。昔というのは、16世紀中ごろのことだと思われます。

丘圭・著