伊勢屋、稲荷に、犬の糞

「伊勢屋、稲荷に、犬の糞」といえば江戸を表すフレーズとして知られています。いつごろから使われたフレーズなのでしょうか。

実際、江戸には伊勢からやってきた商人が多く、江戸時代初期には、江戸の商家の半数近くは伊勢の称号を付けていたともいいます。

稲荷を祀った祠も多くあったようです。犬の糞が道のあちこちに散らかっていたのは、生類憐みの令のお膝元の江戸なので頷けます。

江戸時代は、当然21世紀のいまとは違います。
いまはあちこち公衆便所があって、生理現象はそこで解消されますが、江戸時代には公衆厠はありません。外出した江戸の人は道端で、あるいは物陰で用を足していたのでしょう。知人の家に駆けこんで用を足すこともあったでしょうが、我慢できなければ、そこらで用を済ますしかありません。

そんな人が多かったので、まさかお稲荷様の前では用は足さないだろう、と小便除けに稲荷は祀られていた、という説もあります。なるほど、神様の前で小便を垂れるのは、あまりにも不謹慎、祟りが起こるかもしれません。そんな訳で江戸には稲荷が多かった?

後期になると、小便用の樽が設置されたといいます。ですが、これは排水処理されずに溜めて蒸発させる、という代物です。これでは小便の成分が凝縮されて、尋常でない臭気があたりに漂うことになったでしょう。そして、犬の糞の中には、人糞も混じっていたかもしれません。

同時代のロンドンやパリの人口密集都市に比べると江戸の町は清潔だった、といいます。とはいっても、今の時代とは比べようもありません。

丘圭・著