化粧 「けわい」と「けしょう」

化粧は、いまはメイクアップのことです。
化粧は「けしょう」ですが、そのむかし「けわい」といっていた時代がありました。

『都風俗化粧伝』(佐山半七丸、速水春暁斎・画、文化10年/1813)は「都風俗けわい伝」と読みます。本文中は「けしょう」と「けわい」を分けて使っています。
「けしょう」は、眉の手入れや紅粉や白粉の使い方などを指します。「けわい」は髪の結い方や、爪の切り方、声の出し方、姿勢や歩き方などを含んでいます。
また、同書では化粧を「みじまい」(身仕舞い)とも読ませることもあります。どうやら「けわい」は「けしょう」「みじまい」を含んだ、全般的なことを指しているようです。
ただし明確に分けて書いているわけではなく、混同している個所も見受けられます。

また同時代の書物にも「けわい」表記がありますが、「けしょう」と同意義で使っているもの(『容顔美艶考』、天保3年)もあり、やはり明確な区分はないようです。
明治期になると、婦人誌の化粧関係の記事に、当時の化粧法と分けて江戸時代の化粧を「けわい」として使っている例があります。古い過去の化粧法を「けわい」と称しています。

「けしょう」という言葉は、古く平安時代の書物に登場します。『源氏物語』には「心けさう」と使っています。化粧そのものは飛鳥時代には大陸から伝わっているので、『源氏物語』以前に使われていたと思われます。

「けわい」は身つくろいという意味で鎌倉時代に使われています。『六波羅殿御家訓』に「人の前に出む時は、‥‥衣紋をかきいれ、何度もつくろうべし。さて、出む後はいささかも けはいし、‥‥」と動詞として使われています。
室町時代になると「けわいけしょう」という表現があります。

「けしょう」「けわい」、別の意味がありそうで、なさそうで、ややこしい。

一方、漢字の方は「懸想」「顕証」「気性」「化生」などがあてられることがあります。『源氏物語』の「心けさう」は「懸想」かもしれません。武士の時代になると、死を想定して死化粧をして出陣する武将がいましたが、「けわいけしょう」は首実検の際の「顕証」の意味合いがあるのかもしれません。

「けわい」は、いまは死語です。『都風俗化粧伝』をいまに敷衍するなら、「けわい」は「美容」がそれに近い言葉になりそうです。エステティックやネイル、エキササイズ、フィットネス、もちろんヘア、メイク、化粧品を含んだ美容全般のことです。

しかし、『都風俗化粧伝』には、あくびをこらえる法や、大小便をこらえる法(おまじない)などもあり、「けわい」=「美容」、とするのは無理がありそうです。

丘圭・著