床屋が舞台の落とし噺

東京を江戸といっていた時分、町内に1軒、髪結床があって、そこに若い衆やらご隠居らが集まって遊んでました。

床屋で遊ぶ、って~のは変な話ですが、その時分の床屋は仕事場の床の奥に待合いの小間があって、そこに将棋盤やら囲碁盤、ちょいとスケベな洒落本なんぞがおいてあって、暇な連中はのんびり過ごしていたってわけ、です。
床屋の看板もいまみたいに赤白青のアメン棒がクルクル回っているいるわけではなく、入り口の油障子に奴の絵が描いてあれば奴床、天狗が描いてあれば天狗床、ってな具合になってまして、、、、

八:おい、ご覧よ、あの海老床の看板、よく描けてるじゃねえか、まるで海老が生きてるようじゃねえか
熊:どれどれ、いや~、生きちゃあ、いねえな、
八:よく見ろよ、生きてるぜ
熊:生きてるもんか、どだい絵に描いた海老だぜ、生きてるわけ、ねえだろ
八:いや、生きてる、ヒゲがピーンと跳ねて、いまにも動きそうじゃねえか、確かに生きてる
熊:ばか、いうんじゃあねえ、死んでら~、
八:なに、ぬかす、生きてるっていうのに、この野郎、ぶん殴るぞ
ご隠居:これこれ、お前さんたち、なんだって喧嘩なんぞしてるんですか?
八:いえね、ご隠居さん、いま、この髪結床の障子に描いてある海老がじつによく描けてるんで、まるで生きてるようだといいますとね、この野郎が「死んでる」と、ぬかしやがる、ねえ、ご隠居さんがご覧になって、あの海老はどうみえます?
ご隠居:‥
八:ね、生きてるでしょ
ご隠居:生きちゃあいないようですな
熊:ざまあみやがれ、生きてるわけがねえ、ご隠居さん、死んでますよね
ご隠居:いや~、死んでもおりませんな
八:生きてもいなくて、死んでもいないって~と、どうなってんですか、ご隠居
ご隠居:患ってますな
熊:患っている?
ご隠居:床についてます

、、、、お後がよろしいようで。

落とし噺の一席でした。
江戸時代の床屋を題材にした落とし噺ですが、このほかにも有名な式亭三馬の『浮世床』や、歌舞伎の『雁のたより』などが床屋を舞台にして創作されています。いづれも床屋が庶民の社交場として描かれています。

丘圭・著