仙女路考から「美艶仙女香」

「美艶仙女香」は、おそらく江戸時代で一番有名だった白粉です。
三世瀬川菊之丞(1751~1810)の通称、仙女路考からつけた商標です。瀬川菊之丞というと二世の王子路考が有名ですが、三世も名女形として、安永から文化にかけて活躍した役者です。

「今風化粧鏡」(歌川国貞)

「美艶仙女香」は坂本屋友七の見世(江戸・京橋南伝馬町三丁目南側・稲荷新道の角)が売りました。なんで有名なのかというと、浮世絵、読本など当時のメディアへの露出が半端なく多かったからです。

なんにでもよく面を出す仙女香 (『誹風柳多留』一五四 32)
と川柳に詠まれるほどです。

浮世絵好きの人なら、絵のどこかに、さりげなく「美艶仙女香」の文字があるのを見たことがあると思います。ときにはかなり派手に露出していますし、値段まで書いてあるのもあります。

また、為長春水の『春色梅児誉美』(しゅんしょくうめごよみ)、柳亭種彦の『偐紫田舎源氏』、式亭三馬の『浮世床』などで、文中に登場します。
「‥仙女香ときくと、直に知れやす。稲荷様の東隣りさ‥」(『浮世床』)と見世の場所を紹介しています。登場人物に仙女香がいかによく効くかを語らせている読本もあります。

この宣伝は江戸の庶民に広くいきわたったようで、当時、庶民の文芸ともいえる川柳に多く仙女香が詠まれています。

稲荷新道よく化ける仙女香 (『誹風柳多留』一〇九 30)
稲荷と化けるをかけた句です。仙女香で美人に変身。

縮緬を羽二重にする仙女香 (『誹風柳多留』一〇八 13)
縮緬はシワシワ、羽二重はツルツルです。しわくちゃ肌をツルツル肌に。素晴らしい効能です。

仙女香十包ねだる馬鹿娘 (『誹風柳多留』一〇一 7)
たくさんつければ効果があると思っている娘を親が詠んだ句です。

などなど枚挙にいとまありません。

江戸時代、白粉や紅、化粧水、歯磨き、鬢付け油などが売られますが、その販売は宣伝力がものをいったようです。宣伝力(情報発信力)で商売をするのは、むかしもいまも変わりません。

丘圭・著

「今風化粧鏡」(歌川国貞)の化粧絵。鏡の下に置かれた「美艶仙女香」の包み紙。さりげなく、というようりは、かなりわざとらしい。

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