「美艶仙女香」の効能

歌舞伎の人気女形・仙女路考(三世瀬川菊之丞)から命名し、しかも浮世絵、草紙など当時のメディアにこれでもかと露出した「美艶仙女香」、江戸だけでなく関東一円、東海あたりにも売れていました。いまもむかしも宣伝の力はすごい。(仙女路考から「美艶仙女香」 http://www.kamiyui.net/?p=497

その「美艶仙女香」の効能が、これまたすごい。
引札という当時の宣伝チラシによると、「いろを白くし、きめをこまかにす」は普通の白粉ですが、「はたけ、そばかす、にきび、あせも、御顔のできもの一切によし」、「股のすれたる所へこすりてよし」は皮膚科の薬です。さらに「常に用ちゆれば年たけても御顔のしわよらざる事妙なり」といまのアンチエイジング製品を思わせます。

別の引札には「御かほの妙薬 おしろい 美艶仙女香」として、由来が記されています。
それによると「‥亨保十一年二十一番の船主 伊宇九といえる清朝人 長崎ぐう居のとき丸山中の近江屋の遊女菊野‥」。長文でまだまだ続くのですが、要約すると、仙女香は清国伝来の白粉で、それがたまたま坂本家(仙女香の販売元)に伝わった、とあります。さらに、世間には数多くの顔薬がありますが、それらとは同等に扱わないでください、つまりものが違うことを強調しています。

仙女香の成分や製法は不明ですが、白粉なので鉛(もしくは水銀)が主成分であることは間違いありません。それに香料を添加していたようです。川柳に、仙女香が肌によくのることや、いい香りがすることを詠んだのが多くあります。もっとも、これもやらせの宣伝かもしれません。

仙女香はじめ江戸時代に使われた白粉は、鉛、水銀が含まれているので、肌にいいことはありません。個人差があって、なんでもない人もいますが中毒になる人もいました。中毒とアレルギの違いはありますが、いまのジアミン系のヘアカラー剤と同じようなものです。

鉛・水銀含有の白粉が禁止になるのは明治になってからですが、女性の美に対する欲求は強く、禁止されても使っていた女性は少なくなかったようです。製造しなくなったのは昭和になってからです。

ときには死に至るアレルギー反応を起こす恐れがあるジアミン系ヘアカラー剤もいつの日か廃止されるかもしれません。

ところで引札の効能、由緒の信憑性はというと、ほぼウソです。売らんがためのでっち上げです。景品表示法や薬機法がなかった江戸時代だから許された? 商標法もありませんから、売れる商品はニセものが多く出回ったのが江戸時代です。

丘圭・著